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仙台高等裁判所 昭和41年(う)141号 判決 1966年12月20日

主文

原判決中被告人渡辺弘に関する部分を破棄する。

被告人渡辺弘を懲役四月に処する。

原審における被告人渡辺弘の未決勾留日数のうち二〇日を右本刑に算入する。

被告人阿部定家に関する各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用中、証人樋山篤に支給した分は被告人両名の連帯負担とし、その余は被告人渡辺弘の負担とする。

理由

<前略>

一、弁護人の控訴趣意第一点(事実誤認の主張)について

原判決挙示の関係各証拠を総合すると、原判示第二の事実は、被告人阿部定家が、原判示相良修二、加藤彦三および被告人渡辺弘を原判示潮田寅男方事務所まで案内し、同人に紹介して拳銃および拳銃用実包(以下拳銃等と略称する)購入の斡旋をし、その結果、原判示のように、相良修二ら三名をして拳銃等をそれぞれ購入させ、同人らの原判示拳銃等所持の各犯行を容易ならしめたとの点を含めて、十分にこれを認めることができる。ことに、右証拠のうち、被告人阿部定家の検察官に対する供述調書(計二通)によれば、被告人阿部定家は、原判示高瀬真男から拳銃等の購入斡旋方を依頼され、潮田寅男にその売却方を交渉し、同人の了解をとりつけたうえ、その交渉結果を高瀬真男に連絡し、同人のもとから拳銃等購入のため差し向けられて来た相良修二ら三名を潮田寅男方事務所まで案内するに先立ち、同人に「買手を三人連れて行くが用意ができているか」との旨を電話で問い合わせその了承を得たうえ、同人方事務所まで案内して同人に相良修二ら三名を紹介したことが明らかであつて、被告人阿部定家が拳銃等の取引現場に立ち会わず、あるいは拳銃等の所持について精神的な奨励もしくは携帯に便宜な容器の給与等の行為をしなかつたとして、前説示のように、相良修二ら三名がそれぞれ拳銃等を所持するに至るべきことを認識しこれを認容して同人らを潮田寅男方事務所まで案内し、同人に紹介して拳銃等購入の斡旋をしその結果、相良修二ら三名をして同所で同人より拳銃等をそれぞれ購入するに至らしめた以上、右所為については、同人ら三名の原判示拳銃等所持の実現を容易ならしめたものとして、その幇助罪が成立することはいうまでもないところである(なお、東京高等裁判所昭和二六年(う)第五三一四号、同二七年四月五日言渡判決、高裁刑特報二九号一一六頁参照)。論旨は理由がない。

二、弁護人の控訴趣意第二点(法令適用の誤りの主張)について

被告人阿部定家が斡旋をして相良修二ら三名をしてそれぞれ潮田寅男から拳銃等を購入するに至らしめた経過顛末は、前段で説明したとおりである。しかして、幇助犯の成立には正犯の成立を必要とし、その意味で幇助犯は構成要件的には幇助行為と正犯の行為との結合類型であるとの観点に立つて、右事実関係を観察すると、被告人阿部定家の相良修二ら三名に対する拳銃等購入についての斡旋行為は、包括的な一回の行為ではあるが、右三名が拳銃等を購入してこれを所持するについて、個別的にこれを容易ならしめたものとみるべきであり、したがつて、右斡旋行為は一個の拳銃等所持の幇助罪を構成するにすぎないものと解するべきではなく、これを可分的に評価し、三個の右幇助罪を構成するものと解するのが相当である。原判決が被告人阿部定家の原判示所為を併合罪として処断したのは正当である。論旨は理由がない。<後略>(有路不二男 寺島常久 西村法)

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